【今日の学び】ストア哲学の創始者・ゼノン――理性にしたがって生きるということ

ストア哲学の創始者・ゼノン――理性にしたがって生きるということ

 ストア哲学の創始者ゼノンは、紀元前335年(文献によっては紀元前334年)に地中海東部に位置するキプロス島で生まれました。若い頃の彼は哲学者ではなく、島で暮らす普通の青年にすぎませんでした。しかし、あるとき船で漂流し、ギリシアへとたどり着きます。アテネの古本屋で偶然手にしたソクラテスの哲学書(注)に深い感銘を受けたことが、ゼノンの人生を大きく変えました。そこから、彼の哲学者としての歩みが始まったのです。
 ストア哲学は、一般に想像される以上に後世へ大きな影響を与えました。ローマ帝国の知識人たちも強い影響を受けたと言われています。その教えの一つに、指導者や軍隊を統率する者に向けた「他人を制する前に、まず自分を制しなさい」という言葉があります。これは、自分を制することができない者は他人を制することなどできないという意味であり、裏を返せば、自分を制することができれば他人をも制することができるということです。この言葉は、「舌を制する者は、世の中(政治)を制する」という言葉とともに、ギリシアの軍隊でよく用いられました。アレキサンダー大王も、ガウガメラの戦いの直前など、大きな戦いの前に口にしたと言われています。
 ストア哲学と聞くと禁欲主義を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、ゼノンが説いたのは、単なる禁欲ではありません。彼は「Logos(理性)にしたがって生きなさい」と言いました。つまり、欲望や情念に支配されることなく、理性にしたがうために自己を律し、厳格に生きよと言ったのです。そして、当時における理性は「宇宙の法則」と捉えられており、宇宙は神であると考えられていました。つまり、地域性の中で一時的な感情に左右されることなく、神にしたがって生きなければならない、普遍性の中で生きなければならないと説いたのです。
 ストア哲学は、当時としては穢れのない最高の哲学だったと言えるでしょう。
 21世紀の今、「一人の人間としてどのように生きるべきか」を真剣に考えている人は、いったどれほどいるでしょう。インターネット上にはあらゆる情報が溢れ、街を歩いても電車に乗っても、ほとんどの人がスマートフォンに目を向けています。しかし、そこにある情報の多くは、私たちの人生を豊かにするものではありません。多くの人が無意味な情報に支配され、考えることそのものを手放してしまっているように感じます。
 紀元前300年頃、すでにゼノンは「情念に左右されず、理性的に生きなさい」と言いました。この言葉は、地域的な情報に振り回され、思考を置き去りにしがちな現代にこそ、改めて考える価値があるものです。ゼノンが漂流の末にソクラテスの哲学に自己の人生を見出したように、私たちも今まさに「理性的に生きる」とは何かについて、立ち止まって考えなければならないのだと思います。
  
(注)ソクラテス自身が書いた本はなく、彼の弟子たちがソクラテスの理念・哲学をまとめたものが現代に伝わっています。

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